Sakenomi(♀)のコラム  

グリーン・ホリデー

今回、光栄にも「酒飲みのコラム」に初めて執筆させていただくこととなった。「テーマは自然保護でも野鳥でも、何でもよいですよ」とのお話だったが、やはり、お酒の話題から始めたいと思う。
 10年ほど前、私は緑あふれる英国のカントリーサイドで、昼は肉体労働に汗を流し、夕方は美しい景色の広がる海岸線を散策し、夜は古いパブでビールを飲んですごしていた。私が英国を気に入っている理由のひとつは、このパブにある。ここでは、なみなみと注がれた1パイント(568ml)の琥珀色のビールが、2〜3ポンド(当時500円くらい)で楽しめる。南西部に足を延ばすと、その地域特産のサイダー(りんご酒)がある。5杯ほど飲むと、その日の疲れもすっかり癒され、心地よい眠りにつくことができる。
 ところで、私が英国を訪れたのは、各地のパブでビールを飲み比べるためではない。英国には、100年以上前から、民間の自然保護団体があり、
100万人以上の会員数を誇るという。最も大きいものは、景観と歴史的建造物の保護を目的とし、日本でもピーターラビットで知られる湖水地方の保全等で知名度の高い、ナショナル・トラスト(The National Trust)。英国全土に300以上の所有施設、保護区をもち、会員数は約350万人にのぼる。英国の自然保護活動の実際を、見てみたい、体験したいという思いから、ナショナル・トラストのボランティア・プログラム"ワーキングホリデー"に申し込んだ。


 ここでは、各地から集まった8〜12名のボランティアが、1週間寝食をともにし、その地の環境保全活動に取り組む。草地を管理するために放したウシやヒツジのための柵づくり、英国特有の植生「ヒースランド」の復元、植林地の下枝払いなど、活動はバラエティに富む。ハードなものもあるが、休日に、自然の中でめいっぱい体を動かすことが楽しい。老若男女で取り組む共同作業が楽しい。仕事の後のビールがおいしい。
 その後、日本野鳥の会に就職し、英国西部スウィンドンのナショナル・トラスト本部を訪問し、ワーキングホリデー担当者から直接話を聞く機会があった。「もっと多くの方に、自分たちの進める自然保護活動を知って欲しい。特に若い世代に、体験を通して活動を理解して欲しい」との言葉を聞き、実体験をとおして活動を伝える姿勢に共感した。
 私たちも、日本ならではのボランティア・ホリデーを創れないだろうか。帰国後の2009年、生まれたのが、「グリーン・ホリデー」プロジェクト。初年度は、北海道根室、鶴居村の野鳥保護区で、タンチョウの暮らす湿原やシマフクロウすむ森林を守る4回のプログラムを実施し、10代から70代まで幅広い参加があった。ナショナル・トラストでは年間400回のワーキングホリデーが行われ、4000人を超える参加者があるという。私たち日本野鳥の会も、グリーン・ホリデープロジェクトを育てることで、将来に向けて、自然を守る仲間を増やしていきたいと思う。夢に近づいていることを実感する一方で、ただひとつ、物足りないのは、日本野鳥の会の保護区には活動場所に隣接したパブが無いことだろうか。
 
◎2010年度グリーン・ホリデーについて:詳細・お申し込みは、同封の
案内パンフレットまたは、日本野鳥の会ホームページをご覧ください。 

<プロフィール>
 岡本裕子(おかもと ひろこ)
千葉県木更津市出身。地域の干潟を守る活動を経て、学生時代より、自然保護活動
では先駆的な英国ナショナルトラストの活動にボランティアで関わる。
2000年より財団法人日本野鳥の会に勤務、・普及室・普及教育グループ所属。
2010年度の渾身の企画は、誰もが休日の楽しみ方のひとつとして、気軽に野鳥保護区
の保全活動に参加できるボランティアプログラム「Green Holiday(グリーン・ホリデー)」。