Sakenomiのコラム
その38



 ワシントンと言えば、場末のキャバレーか新宿西口のホテルくらいしか思い浮かばないsakenomiですが、このところテレビや新聞でやたらと目につくのがこのワシントン、いやいやワシントン条約だ。これはキャバレーでウダウダと酒を飲んだくれてる場合ではないぞ〜!?
 今から約25年前の東京・麻布台の小奇麗なオフィスビルで、なぜかBenとsakenomeは一緒に仕事をしていました。時は1985年頃、「成長の限界」というローマクラブのレポートが発表され、先進国の経済成長と裏腹に世界各地での様々な環境破壊が深刻な状況になりつつあることが初めて国際的に取り上げられた画期的な会議、いわゆるストックホルム会議(国連人間環境会議)が開かれてから約10年後のことです。
 ストックホルム会議の結果として国連環境計画(UNEP)が設立され、相前後して「世界遺産条約」「ラムサール条約」そして今話題の「ワシントン条約」が成立しました。今年はカタールのドーハでその締約国会議が開かれています。中心議題はクロマグロの取引の規制です。
 海外旅行によく出かける方はご存知かもしれませんが、ワシントン条約とは正式には「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Floraで、海外では
「CITES(サイテス)」と呼ばれることが多いようです。皮肉にもマグロのおかげで、日本のマスコミが大々的にワシントン条約を取り上げるようになりました。日本がワシントン条約を批准したのは30年前の1980年。その頃話題になっていたのは象牙とべっ甲、そしてキンクロライオンタマリンです。象牙は印鑑やピアノの鍵盤に、べっ甲(ウミガメの一種、タイマイの甲羅)はいわゆる日本伝統のべっ甲細工の原料に使われていました。日本は当時すでに野生生物輸入大国となっていました。南米から日本に密輸された小型サルのキンクロライオンタマリンの一部が香港に再輸出され、香港で密輸が発覚したいきさつがNHK特集でも取り上げられたりしています。ま、新しいようで古くからある問題と言ってよいでしょう。

 そして今度はマグロ。今となっては、スーパーで売っている魚介類の多くが養殖されるようになったおかげで、お祝いの席でしかありつけなかったマダイのお刺身が、手ごろな値段で買えるようになりました。そして養殖不可能だったはずのマグロも、スーパーに行くとついに「養殖」と書かれたものが出回っています。しかしこれは野生のマグロの稚魚を捕獲して育てた「畜養」マグロであり、地中海などから輸入されたものであることはご存知でしょう。近畿大学がマグロの完全養殖に成功したと言っても、需要を満たすにはるかに及びません。
 マスコミがこの問題を取り上げるとき、きまって「これは日本の食文化だ」とか「マグロを食べない奴らに文句を言われる筋合いはない」「俺たちには生活がかかっている」といった論評がでてきます。泥仕合の応報みたいなものです。
 ここでsakenomiが珍しくも毅然と言いたいのは、日本の食糧自給率の改善を考えなさい! ということです。マグロやクジラを日本の沿岸で捕ることにまであえて反対はしません。が、いつまでも太平洋の南半球やインド洋、地中海まで出かけて行って、捕獲したり輸入したりしていて大丈夫なのか。また、どれだけ大量のイワシが、育養のための餌となっているのでしょう。いずれにしても、マグロが日本の食文化だからといって、絶滅したらおしまいです。
 「マグロは激減している」「いやいや減ってはいない、大丈夫だ」。誰がどういう手法で調査して出た結果なのか。そのあたりも報道機関にはしっかり取り上げてもらいたい。もっとも捕獲したい側も反対する側も納得のいく調査方法というものが、果たしてあり得るのか。
 プリウスの欠陥を証明する大学の先生の実験がねつ造だったり、かといって欠陥の対応に消極的なメーカーも問題です。世の中、何を信じて良いのかわからない。
 ま、クロマグロなんてまず食べたこともないsakenomiが、こんなことを心配すること自体が馬鹿げた話である。
 いずれにしても、私たち自身が食べるものは自国で何とかできるようにすることが大切なのだ、と、朝夕ぬか漬けのぬかをかき混ぜながら考える今日この頃です。
(2010年 春)