Sakenomiのコラム その35


北限のサル、危うし!?


 日本列島には2種類のサルが生息しています。などと言うと、あれあれ、日本にはニホンザルしかいないんじゃなの? いやいや、私たち人間も霊長類、つまりサルなのですよ〜。両者の違いは、なぜか人間の方が猿より毛が3本多いだけなのだとか!? 私たち人間は紛れもなく動物であり、サルの一種であることをまずは思い起こしましょう。
 日本列島が大陸から分断されたのは縄文時代の早期、今から1万年ほど前と言われています。それ以来、日本人とニホンザルは一緒に日本列島で暮らしてきました。その間、人間は文明を築き上げましたが、ニホンザルは1万年前とおそらくほとんど変わらない暮らし方を今もしているのでしょう。日本人とニホンザルの間には、長い間、特にもめ事もなく互いに平和に暮らしてきましたが、近年になって両者の間に様々な軋轢があちこちで頻繁に生じるようになりました。



 青森県の下北半島に生息するニホンザルは「世界最北限のサル」と言われ、人間以外のサルでは最も北に分布しています。ふつうサル類は積雪地帯にはいないため、海外の動物学者から「スノー・モンキー」などと呼ばれ、1960〜70年前後には海外から見物に来る学者たちもいたほどで、1970年には「下北半島のサルおよびサル生息北限地」として国の天然記念物に指定されました。

 実はこの北限のサルたち、畑あらしをしたり人家に侵入したりするというのでこれまでにも捕獲されてきましたが、被害が甚大になったという理由で、今年、270頭も捕獲されることになったのです。 サルが下北半島西南端・くそうどまり九艘泊の漁師の人たちの畑に姿を現すようになったのは、1960年の冬。当時地元の人たちは、恐山から神様が下りてきたのではないかと畏敬の念を持ち、サルも冬に食べ物がなくてさぞや困っているのだろうと、多少の畑あらしは大目に見ていたようです。

 その後、村が野猿公苑を作って餌付けを始めたことで、冬に死亡する赤ちゃん猿の減少により個体数が増加しはじめ、餌付けによるサルの人慣れと相まって畑荒らしが拡大してしまいました。人に馴れた猿は脅かしただけは逃げてくれないのです。そして開拓農家の畑を荒らすようになったことで事態が深刻化し、捕獲が始まった経緯があります。
 それでも当時、下北半島南西部のサルはせいぜい200頭程度あったと推定されていたものが、現在では下北半島全体で1700頭前後がいるのではないかと推測されたため、とうとうサルの大量捕獲という判断がなされたようです。

 サルによる畑荒らしはなぜ拡大したのか。

・ もともとサルが暮らしていた場所を、人間が開拓して暮らすようになった。
・ 1950年代に落葉広葉樹を拡大造林により一斉に針葉樹にしたことで、山の食べ物が激減した。
 そしておそらく最も深刻な原因は・・・
・ 地球高温化で冬期の気温が上がり、冬に死亡する個体が大幅に減って個体数が急増し、群れの拡大や分散が進み、分布域も広がった。
 今では畑荒らしがひどくなり、人家に入り込むことも頻繁になってしまったようです。これでは確かにたまりませんね。

 となると、全体数を一定以下に減らすための捕獲が、毎年永遠に続くことになるのでしょうか? 捕獲された猿はおそらく薬殺されるか実験動物にされます。行く末を案じて一部ではあるものの、上野動物園が下北半島のニホンザルは遺伝子的にも貴重だとして、引き受けることになったようです。

 さて、来年は生物多様性条約の第十回締約国会議(COP10)が名古屋で開催されます。日本は島国であるため、数多くの固有種(日本にしかいない種類の生物)も暮らしています。同じ日本列島で1万年も暮らしてきた他の生き物たちと、末永く共存・棲み分けすることはできないのでしょうか。移入種の問題も深刻です。
 ここは何とか、猿よりなぜか毛が3本多い人間たちが、知恵を絞らなければなりません。桃太郎に登場するサルやキジ、猿蟹合戦のサルとカニ、鶴の恩返しのタンチョウ? 浦島太郎のウミガメが、絵本や図鑑でしか見られなくなることがないように、いつまでも仲良く暮らしていけたら良いですね。
(2009年・春)